2018年3月30日金曜日

【学問のミカタ】常識を超えるためのメソッド(その3・韓国の高齢者福祉制度は日本よりも遅れていますでしょうか?)

2018.3.30 学内風景
2年次も頑張りましょう!

みなさんこんにちは。

昨日とても暖かかったせいか、今日は桜の花びらが沢山舞っていましたね。
桜も終わり、いよいよ来週から2018年度始動です!

今日は【学問のミカタ】その3、韓国の高齢者福祉制度についてです。

その1では、西下先生の今までの研究について、その2では、福祉国家で有名なスウェーデンの福祉制度について寄稿していただきました。
そして今回は、お隣の韓国の福祉制度について教えていただきました。
ではどうぞ。

【前回のブログ記事へ】
 【学問のミカタ】常識を超えるためのメソッド(その1・プロローグ)
 【学問のミカタ】常識を超えるためのメソッド(その2・スウェーデンは高福祉高負担の国でしょうか?)

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常識を超えるためのメソッド
(その3・韓国の高齢者福祉制度は日本よりも遅れていますでしょうか?)

                                             現代法学部 西下彰俊



2)韓国の高齢者福祉制度は日本よりも遅れていますでしょうか?

確かに常識的には韓国は後発の福祉国家ですが、全ての高齢者介護政策が遅れているわけではありません。むしろ介護保険制度を韓国よりも8年近く早く2000年にスタートさせた日本が、逆に韓国から学ぶポイントが数多くあります。ここでも、韓国の高齢者福祉が日本よりも遅れているという常識を超えなければならないと思っています。


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後発のメリットという言葉がありますが、韓国の老人長期療養保険制度は日本の介護保険制度の光と影を学びながら、コンパクトに構築されました。ケアマネジャーという専門職を制度化しなったことが、そのコンパクトさの象徴です。韓国は、2016年に認知症高齢者に向けたサービスを制度化し始めています。すでに日本の介護保険制度に含まれている部分もありますが、日本の制度にはない独自の発想の部分もあります。

先に述べた要介護高齢者に対する虐待防止、人権保護という点では、韓国は優れたシステムを構築しています。ソウルに中央老人保護専門機関を置き、全国に29か所の地方老人保護専門機関を設置しており、在宅高齢者への虐待や介護施設における高齢者への虐待に関する通報を受け付け、虐待かどうかの調査を専門的に行っています。専門機関にはシェルターがあり、虐待被害者の一時的保護を行っています。また老人保護専門機関職員が、介護施設や病院を訪問し、虐待防止のための職員研修を行うなど極めて重要な役割を担う専門機関となっています。

残念ながら日本にはこうした老人保護専門機関は存在しません。日本においても高齢者虐待は増加しており、高齢者虐待防止機能、保護機能を持つこうした老人保護専門機関が必要です。高齢者だけにとどまらず、児童虐待の増加が極めて深刻であり、また障がい者への虐待も増えていることからすれば、一刻も早く「虐待防止総合センター」が設けられる必要があります。

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地域福祉の機関についても、日韓の両国で差が見られるます。韓国には、社会福祉館老人福祉館という地域福祉の中核機関があります。前者は貧困高齢者に昼食を無料で提供したり、少し見守りが必要な要支援の高齢者へのサービスを展開しており、後者は、卓球やビリヤードなどの屋内スポーツやダンス、合唱など社会参加を促すプログラムやパソコンや語学など生涯学習に役立つプログラムが用意されています。また韓国には、敬老堂という地域密着型の介護予防・社会参加システムがあります。こうした地域福祉機関は、介護保険前は多かったのですが、現在少数しか存在しません。社会福祉協議会という半官半民組織は、全国レベル、都道府県レベル、市町村レベルに重層的に存在し、地域福祉の中核を担っています。

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チャンウォンの病院のスヌーズレン
ところで、筆者の研究テーマの一つに、認知症ケアがあります。その認知症高齢者に対する非薬物療法として「スヌーズレン」(Snoezelenという感覚統合療法があり、スウェーデンや韓国ではよく見かけます。韓国では、老人療養院という介護施設や慢性期療養病院、保健所に設置されることが多いです。オランダが発祥の地で、スヌーズレンはもともと自閉症児、重度重複障害者を対象としてきましたが、認知症高齢者への効果が指摘される中で世界的な広がりを見せています。残念ながら日本ではほとんどスヌーズレンが話題にすらなりません。こうした点を確認しただけでも、韓国の高齢者福祉制度が遅れているという常識は間違っていることが分かります。こうした常識を超えなければなりません。




 以上、スウェーデンと韓国について常識を超えるメソッドの一端に触れてきました。我々にありがちなのですが、外国を過度に美化したり過度に貶価したりすることは厳に慎まなければなりません。一つ一つの国が持つ光と影を、予断を排除して、冷静に客観的に、実証的にありのままに、理解すること、この一語に尽きます(もっとも語が1つどころか多数ありますが)。これが国際比較研究する上で最も重要な態度だと思っています。

私たちの常識的思考のうちでもっとも危険な発想は、「世界中のどこかにフルスペックのユートピアがあるはずだ」という思い込みです。ベストの国はないのです。ベターな国があるだけです。これからも、こうした立ち位置から国際比較研究をしてきたいと思います。

最後の最後になりますが、私達は、スウェーデンは医療費も無料で素晴らしい国だという常識を持っています。確かに少額の自己負担であることは素晴らしいのですが、それ以外の点で実は、常識を超える作業が必要なようです。2018年度に寄稿の要請があれば、この点についても紹介してみたいと思います。

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西下先生ありがとうございました!

いかがでしたか?

昨日一昨日と、スウェーデンに出張中の西下先生から、スウェーデンの最新情報が届きましたので併せてお読みください↓

私の方はまた次回!




・・・・・・・・・・・・<付記1>・・・・・・・・・・・

今、スウェーデン出張中です。
その2の記事で、高齢者ケアに関して、在宅ケアと施設ケアのコスト比較の話をしました。最新の情報を見つけましたので、お伝えします。

スウェーデンには290のコミューン(市)があり、自治体間の差が大きいのですが、スウェーデン全体の平均では、2016年に関しては、在宅ケアの利用者一人当たりの年間コストは、約267,000SEK(339.1万円)、施設ケアの入居者一人当たりの年間コストは約807,000SEK(約1025.9万円)ですので、約3倍、施設ケアの方がコストがかかることが分かります。スウェーデンでは80歳以上の高齢者や認知症高齢者が徐々に増えていくにもかかわらず、順序モデルの原則がより強化されスウェーデン全体の介護施設の入居者数が徐々に減っています。コストカットという危ない傾向が続いており、深刻な構造的問題だと痛感しています。


・・・・・・・・・・<付記2>・・・・・・・・・・・

スウェーデンが福祉国家のトップランナーの一つであることは、断るまでもありません。以下にその具体例を幾つか示すと、
・育児休暇と所得保障率が世界的に見て最高水準であり、父親と母親がバランスよく休暇を取得するための経済的インセンティヴを設けていること。
・児童手当が所得の多寡に関係なく支給されること及び多子加算制度が設けられていること(多子加算については、個人的には問題が多いと考えているが)。
・学校教育の授業料が無料であること。
・外国人へのスウェーデン語教育を4段階(母国の学歴に準拠)に分けて設けており、基礎自治体であるコミューンが全て無料で行っていること。
・移民・難民の受入れをドイツ同様積極的に実施してきたこと(ただしスウェーデンは2016年末に受け入れを停止)。

以上のようなトピックスに関しては、福祉国家スウェーデンの光の部分であり、常識を括弧で括るという思考の手続きは、不要なのかもしれません。

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