2017年11月21日火曜日

【学問のミカタ】「できる」と思うか、「できない」と思うか?~障害者雇用政策のあり方~

2017.11.21 火2限 「障がい児・者と法」 中川 純教授

みなさんこんにちは。
11月も後半になりました。あと40日で今年も終わりらしいです。

皆さん心配してくれるので、そろそろご報告とお礼を。。。
2017.9.25ブログ【学問のミカタ】より
これを見て心配して連絡してくれた卒業生もいました。
ありがとうございました。

思い起こせば夏休み、8月下旬の出来事でした。
2017.8.7 ブログ「良い夏休みを!」より

「学生の皆さんも旅行をするときなど十分に注意してください」

なんて書いたのに....

 現法さんが交通事故に遭ってしまいました(@大阪)。あああぁ、恥ずかしい。。。

 突然右折してきたプリウスのタイヤが足の上を通ったため、全責任は轢いた側にあるのですが、くるぶしや足の甲の骨など5箇所を骨折してしまいました。2週間ほど入院し、手術をしてワイヤーで骨を固定するなどを経て現在に至ります。来年の夏休みにまた入院してワイヤーを抜きます。

 松葉杖って結構大変なんですね。両腕は筋肉痛だし結構滑ります。また、何も持つことが出来ません。10月は雨ばかり降っていたのに、傘もさせずに道端でタクシーを待つ羽目に。雨の日のタクシーはつかまり難いのですが、合羽を着ていると余計止まってもらえずスルーされるので、合羽は着ずに「そんなに降っていないよ」的な涼しい顔をしながら道に立っていました。台風のときは、意味不明な濡れている人だったでしょう。書き出すともう本当にいろいろと困ったことや悔しいことがありました。

 しかし一方で周りの方の優しさも感じました。特に学生の皆さん。
お昼を「持ちましょうか」と学務課まで運んでくれた学生さん、雨の日に傘をさしてくれた学生さん、混んでいた1号館のエレベーターから降りてくれた学生さん、こちらも挙げればきりがないほど沢山の皆さんにお世話になりました。現代法学部だけではなく、他学部の学生の皆さんにもお礼が言いたいです。本当にありがとうございました。

 先週からようやく松葉杖が1本になり、だいぶ生活しやすくなりました。年内に松葉杖から卒業できるようリハビリを頑張ります。

 そうそう、現代法学部の先生達にもお世話になりました。会議の荷物を運んでくださったり、大阪の警察署の方が東京に出張してきて「調書」を取られるときも、どんなことをやるのか説明してくれました。轢いた人との話し合いの進め方などもアドバイスしていただき、ありがとうございました。現法担当でよかったです。

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さて、今日は【学問のミカタ】。
今回は中川 純先生に寄稿いただきました。

中川先生は今年現代法学部に着任された先生です。
専門は社会法学で、現法では主に「労働法」「障がい児・者と法」を担当されます。今回は障がい者の雇用政策についてご寄稿くださいました。
ではどうぞ!


【学問のミカタ11月】

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「できる」と思うか、「できない」と思うか?
~障害者雇用政策のあり方~

2017.6 成績優秀者表彰式

*「適材適所」って何?
 「適材適所」という言葉を知っているでしょうか?
 能力や特性などによって、その人にふさわしい地位や仕事を配置することをいいます。「適材適所」とは、簡単にいえば人材と仕事のマッチングをうまく図ることです。うまくできれば仕事の効率性が高まるなど、いいことがあります。こう聞くと、「適材」の本来の意味を「人材」と受け取ってしまうかもしれません。ところが、元々の意味は、木材です。木造の日本家屋をつくるときに、土台には水に強く、狂いの少ないヒノキやヒバを、内装には木目の美しいスギを、天井を支える梁には頑丈なマツを使い分けていました。このような木材の使い方を語源としています。

*障害者が働くことを支援する政策は「適材適所」的?
 わが国の障害(障がい)者の就労を支援する政策は、障害者の働く能力に応じて、ふさわしい就労の場を用意するものとなっています。その意味では「適材適所」的であるといえるかもしれません。障害がありながらも働くことができる人については、企業に一定割合の障害者を雇用する制度(障害者雇用義務制度)が就労の機会を得やすくしています。また、すぐに一般企業で働くことはできませんが、将来そうしたいと考えている障害者には就労移行支援事業(以下、移行支援事業)が、その希望をかなえようとします。一般企業で採用されるのは難しいのですが、労働契約を締結して働くことができるほどの労働能力がある障害者に対しては、就労継続支援事業A型事業が、最低賃金(最低賃金法に基づき都道府県ごとで決められた金額)が支払われる就労の場を提供します。一方、一般企業で働くことが難しいと考えられる障害者には、就労継続支援事業B型事業所(以下、B型事業所)が訓練を提供しています。ただし、B型事業所や移行支援事業所で就労する障害者には、最低賃金法が適用されないので、就労による所得だけでは生活するのが困難なほどの金額しか支払われていません。1時間あたりの工賃は、100150円(B型事業所)、250300円(移行支援事業所)あたりが相場となっています。

*「適材適所」的政策はワールドスタンダード
 障害者の労働能力に応じて階層的に就労の場を設定する政策は、わが国に限ったことではなく、他の国にもみられます。たとえば、フランス、オーストラリア、台湾なども同じような政策を採用しています。世界的にみても一般的なものであるといえるでしょう。

*アメリカ・カナダでは違った政策?
 これに対し、アメリカ・カナダでは違った政策が採用されています。階層的に就労の場を設けるのではなく、障害者も一般企業で働いてもらおうという考え方です。その特徴は、B型事業所のような福祉的就労の場をなくし、障害者に、非障害者(健常者)と一緒に働くことができる職場で、就労の機会を与え、最低賃金を保障しようとするものです。アメリカ・カナダでもこのような政策が完全に実現しているわけではありませんが、そうすることを目指しています。

 このような政策に対しては、「障害者は働く能力に制約があるから、一般企業で就労するのは無理なのではないか?」、「そんな夢みたいな話はありえない」という人がいるかもしれません。しかし、日本では働くことが難しいだろうと思われる障害者が、アメリカ・カナダでは一般企業で働き、最低賃金を超える金額を受け取っています。ひとつの例として、カナダだけでなくアメリカにも進出しているファストフード店で働く20代の自閉症のカナダ人女性を紹介しましょう。彼女は、入社当時は他人の顔をみることも、あいさつもすることができませんでした。しかし、時間をかけて職場や仕事に慣れることで少しずつ能力を発揮し、現在はキッチン部門マネジャーとして働いています。賃金もその職責に応じているので、最低賃金を超える金額をうけとっています。かつて得意ではなかった接客も、現在は肩に力が入ることなく、自然にこなすことができていました。

*「できる」力を信じるアメリカ・カナダ
 アメリカ・カナダと日本は何が違うのでしょうか?それは、政策をつくり、実行する人、障害者を支援する人が、障害者の「できる」力を信じている、少なくとも信じようとしていることです。ロサンゼルスの国際会議で会ったアメリカ連邦政府の労働省の高官も、「(支援があれば)どんなに重度の障害があっても、働けない障害者はいない」とあたり前のように言っていました。

*「できない」部分をみてしまう日本
 それに対し、日本では、政策をつくる人、福祉的就労で障害者を支援する人、特別支援学校の先生、障害者の親も、障害者の「できない」部分をみる傾向にあります。そして、障害者に無理をさせるよりも、安心で、安全で、安定した環境を提供しようとする意識が強いように思います。障害者が階層のどこで働くか、どの学校に進学するかを決めるときに、このような見方が強くでてしまいます。このような中で、障害者本人も自分の能力や希望に気づくことができなくなります。そのせいか、階層的な就労の場の間での移動はあまりみられません。つまり、福祉的就労の場から一般企業で働くことができるようになった障害者はあまり多くありません。最初から一般企業で働けるなんて思えなくなるのです。これは日本に限らず、他の国でも同じことが言えます。合理的に見える「適材適所」モデルにも落とし穴があったのです。

*少しの違いでも、結果は大違い
 今回はアメリカ・カナダのいいところを紹介しましたが、別にアメリカ・カナダの政策が常にすばらしいなどといいたいわけではありません。日本やそのほかの国の政策もすぐれているところがたくさんあります。知ってほしいのは、少しの考え方の違いで、政策のあり方が大きく変わってくることです。「できる」と思うか、「できない」と思うかというわずかなことが、大きな違いを生み出しています。



 みなさんも日ごろから「できる」と思えば、これまでとはまったく違った学生生活が送れるかもしれませんね。

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中川先生ありがとうございました!

いかがでしたか?
現法さんは足を折ったくらいでこれだけ生活が大変なのだから、障がいを抱えている人はもっとずっと大変なのだと思います。しかし「できる力を信じる」という方法で応援することも出来ますね。周囲の考え方の転換が必要なんだろうなと思います。

ではまた次回。