2016年5月26日木曜日

【学問のミカタ】お金について~ その2 電子マネー、仮想通貨など

みなさんこんにちは。
今週になってまた暑くなってきましたね!
夏はまだ先ですが、熱中症もあなどれません。
今のうちから夏バテ対策をするのも得策です◆


今月は「お金」をテーマにブログを更新していますが、桜井 健夫教授が、
前回に引き続き、タイムリーなテーマを書いてくださいました☆

それではどうぞ!


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現代法学部で金融法分野を担当している桜井です。お金の話の2回目。今回は、現金⇒電子マネー⇒仮想通貨と展開します。


【現金】
 

マイナス金利政策で、金庫が売れているということです。金庫にお金を入れる場合、どんな種類のお金を入れたらいいのでしょうか。



貯金箱には硬貨が似合いますが、硬貨は20枚までしか強制通用力がないし(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律7条)、多額になるとかさばるので、金庫には合いません。金庫に入れるお金と言えば1万円札です。


2004年、それまで1万円札(D1万円紙幣)の束を金庫に入れて保管していた人たちは、新1万円札(E1万円紙幣)発行で、あわてました。金庫内の1万円札がそのうち使えなくなると思ったからです(実際は今でも使えます)。


この時の紙幣一斉リニューアルでは、1000円札、5000円札は描かれる人物も交替しました(夏目漱石⇒野口英世、新渡戸稲造⇒樋口一葉)。1万円札だけは福沢諭吉のままで他の部分を変更しました(当時の総理大臣は慶応義塾出身者なので諭吉をはずすわけにはいかなかった?)。

さらにその前の1万円札(C1万円紙幣)には聖徳太子が描かれており、これも今でも使えます(ただし店で使うと驚かれます)。

 



1万円紙幣
出典:独立行政法人国立印刷局サイト

 

 これらはもちろん、さらに昔のお金や世界のお金が、

日本銀行の貨幣博物館(http://www.imes.boj.or.jp/cm/)にたくさん展示されています。

 日本橋駅からすぐで東京駅からも歩いて8分。無料で、土日も開館しています。

 2015年11月にリニューアルオープンしたばかりです。一度足を運んでみることをお勧めします。

 なお、貨幣博物館のサイトには、所蔵資料の紹介やお金の歴史に関する多数のコラムが掲載されており、通貨に関心のある方にはこちらもお勧めです。http://www.imes.boj.or.jp/cm/history/


 

貨幣博物館で売っているお菓子「ちょこっと諭吉」  撮影:筆者
 
 
【電子マネーなど】
 
 このように、現実の通貨には長い歴史があります。

 ところが最近、支払い決済の世界では急激な変化が起きています。現金を使わず、スイカなどのIC型電子マネー、アマゾンギフトなどのサーバー型電子マネーやデビットカード、クレジットカードなどで支払うことが増えているのです。


 皆さんも、ネット通販で買物をしたときの代金は現金以外で払っているのでは?

このような現金以外の支払い手段も、支払い決済のどこかの段階で通貨を利用しています。


IC型電子マネーでは現金を前払いしてチャージします。サーバー型電子マネーではコンビニなどで現金を前払いして記号番号を手に入れて相手に送信します。


デビットカード、クレジットカードでは、日本円という通貨の銀行預金から代金額が差し引かれます。
 


【仮想通貨】
 
 これに対し、数年前、支払い決済のどの段階でも既存の通貨がいらない支払い手段が登場しました。

 ビットコインなどの仮想通貨です。


 発行主体がなく、誰も管理していないので、犯罪収益のマネーロンダリング(資金洗浄)に使われるおそれが指摘されています。



 2015年6月、G7サミットで、仮想通貨によるマネーロンダリングを防ぐ法整備を各国で行うことが確認されました。


 それを受けて日本では、資金決済法、犯罪収益移転防止法等の改正を行うことにし、2016年5月25日に成立しました。


 改正資金決済法では、仮想通貨と法定通貨の交換業者について登録制を導入し、口座開設時における本人確認の義務付け等を行い、預った金銭・仮想通貨の分別管理等のルールを整備する内容となっています。

 
 ビットコインについては、絵や模型(?)の写真までネット上で流れていますが、情報により構成されているので、実際は見ることも触ることもできません。

 したがって、残念ながら金庫を買っても役に立ちません。
 


2016年5月19日木曜日

【学問のミカタ】お金について~ マイナス金利など




みなさんこんにちは。
キャンパス内でも半袖で歩いている学生が増えてきました。
1年で一番過ごしやすい時期ですね! ただ、同時に「五月病」の時期でもあります。
楽しく健やかな毎日を送りましょう☆



現代法学部の第2回目【学問のミカタ】桜井 健夫先生に

「お金」をテーマに書いていただきました。
ではどうぞ!

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現代法学部で金融法分野(金融商品取引法、保険業法、保険法、資金決済法、手形法、小切手法、電子記録債権法など)を担当している桜井です。

今回はお金の話。マイナス金利の話と消滅通貨の話をします。

【マイナス金利】
日銀のマイナス金利政策の影響で、金庫が売れているそうです。マイナス金利・・・。
不思議な言葉です。金利という言葉自体にプラスの数値という前提があるので、これは矛盾としか言いようがありません。


2016年1月29日に日銀が決定したマイナス金利政策では、銀行が日銀に預けている預金に利息がつかず、逆に預け賃が発生することになります。日銀に預ければ預けるほど損になるようにして、そのお金を貸出しや投資に回させようという景気対策です。
これに対し、顧客が銀行に預けている預金の金利は、現状ではほとんどなくなるだけで(!)、マイナスになることはありません。日銀の金融法委員会も、銀行預金の金利は、消費寄託という契約の性質からも預金約款の解釈からも、マイナスにはできないと解釈するのが合理的であると2月に発表しています。http://www.flb.gr.jp/jdoc/publication49-j.pdf


 
 
ただし、これは現状の預金約款(預金者と銀行の契約内容となります)を前提とした解釈です。もし預金約款に、変動利息条項に加えてマイナス金利を想定した明示の定めを入れれば、それらの定めは有効となります。民事法の世界には「契約自由の原則」というものがあり、消費寄託に関する民法の規定と異なる契約をすることも原則として自由※だからです。金融法委員会も同様の指摘をしています。

 
※ 民法は、利息付の消費寄託について貸主が金利を支払うこと(当然プラスです)を前提としています(民法666条、590条)が、これと異なる契約をすることは自由。
たとえば、「適用金利が負の値となった場合、預金者は、利払日にその絶対値を用いて計算される利息相当額を銀行に支払う。」と預金約款を変更すれば、預金者が銀行に金利を払うことになります。そうなると、預けると減ってしまうので、金庫に入れておいた方がましだということになります。金庫が売れているという話が、そこまで見越した動きだとは思いませんが・・・。
【消滅通貨】
 マイナス金利をさらに一歩進めた制度に「消滅通貨」というものがあります。「自由通貨」、「スタンプ通貨」、「老化する通貨」などともいいます。時間の経過とともにお金が老化し減っていくのです。
「ネバー・エンディング・ストーリ―」や「モモ」などの作品で有名な作家ミヒャエル・エンデ(1995年没)。その生前のインタビューなどで構成される『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』(河邑厚徳+グループ現代、講談社2011年))に、お金についてのエンデの考えが紹介されています。毎月、額面の一定割合(例えば1%)ずつ減っていく「消滅通貨」を作って流通させるという、シルビオ・ゲゼルの通貨構想にエンデは賛同しています。実際に1930年代にドイツやオーストリアの地域で「消滅通貨」の一種がつくられ流通したことがありますし(国家に潰されました)、その後も欧米の地域で何度となく作られたことがあります。
「消滅通貨」は決済のためのもので、蓄積にはむいていません。金利を生まないどころか、持っていると減ってしまうからです。「現金」の形で持っていても減ってしまうので、マイナス金利政策よりもはるかに資金循環を促進します。すぐ遣ってしまうので、金庫はいらないでしょう。