2015年5月27日水曜日

「行政法」ってどう学んでいけばいいの?
~若手教員 金崎剛志先生に聞く~

2015.5.20  現代法学部 金崎先生歓迎会

皆さんこんにちは。

毎日本当に暑いですね、5月とは思えない!朝、大学まで来る道のりがつらいです。
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さて、今日は少しブログのお話から。

「現代法学ブログ」は今回の記事で68本目となりますが、この1年のあいだ常に閲覧数がトップ10に入る、隠れた人気記事があります。それは、この記事です。

【過去のブログ記事へ】「刑法」ってどう学んでいけばいいの?
                      ~若手教員 中村悠人先生に聞く~

検索キーワードを見ると
 「刑法 学習方法」
 「刑法 好き」

などでこの記事にたどり着いているようですので、東経大の現代法学部生だけではなく、法学を学んでいる学生さんに広く閲覧されているのかなぁと思います。

今回は、「行政法」について、この春に着任された金﨑剛志先生に質問してみました。金崎先生には昨日お願いしたばかりなのですが、昨日のうちに書き上げてくれました。助かりました。あの【おっとり】とした話し方から想像もできない【仕事のはやさ】にびっくりです。また、小学生のころ国会中継が大好きだったとか、話しているといろいろ「不思議」な先生です。

ではどうぞ。

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2014.12 「ゼミ研究報告会」にお手伝いに来てくれました。

Q1:「行政法」とは一言でいうと、どのような法律ですか?
 行政法とは何かというのは、一言でいえば行政に関わる法律ということになります。
 刑法には刑法という名前の法律があり民法には民法という名前の法律があります。これに対し、行政法には行政法という名前の法律がありません。

 行政というのは、市役所や都庁、あるいは国の省庁で日々行われている活動です。生活に困っている人がいれば生活保護を与える。道路上に自転車が放置されていては危険なので、放置自転車を撤去し、持ち主がとりにくるまで保管する。家庭ゴミを放置していては生活環境が悪くなってしまうので、ゴミを回収して処分する。実は、こうした活動はすべて行政が行っている。この行政に関わる様々な法律を、行政法と呼んでいるわけです。

2:「行政法」を理解するために必要なことは何ですか?
 行政法というのは、Q1で説明した通り、様々な法律をとらえて行政法と呼んでいます。したがって、他の法律科目と比べても、とてもマイナーな法律を扱うことが多いということになります。しかも、それぞれの法律の書き方も複雑で、難しい言葉が用いられていることが多い。ここで、多くの人がつまずいてしまうということになります。

 このように、一見するととても複雑で条文を読むことすら断念してしまいそうな行政法ですが、条文を一つ一つ丁寧に読むということに慣れるということが行政法の理解には必要です。条文を一つ一つ丁寧に読むというのも難しいことのように思われます。日常の行政を行う職員の立場に立って、あるいは行政サービスを受ける一般国民の立場に立って、われわれに身近な行政はどうあるべきか、ということを考えながら辛抱強く法律に向き合うということも必要です。

3:「行政法」の効率の良い勉強方法を教えてください。
 Q2で説明しましたように、行政法が難しいように思われるのは、法律の条文が読みづらいというのが一つの原因です。しかし、なぜそれぞれの法律が必要なのか、ということを理解できれば、だんだんと条文を読むことに慣れてきます。

 例えば、情報公開法は、行政で行われていることを国民が知るということによって、国民が行政について理解したり批判したりするということができるようにする。このことによって、行政が公正かつ民主的に行われる。情報公開というのはそのためにある制度です。だとするならば、情報の開示によって行政の公正を妨げるようなことがあれば、それは法律の本来の目的と違うということが分かる。だから、法律は開示しない情報というのも定めている。そのことを理解すれば、法律がいくつかの情報について開示しないこととしている条文も読みやすくなるといったことです

 その法律がなぜ必要なのかという根本を理解することが、行政法を効率的に学習するコツであると思います。

4:先生はなぜ大学の教員になったのですか?先生が行政法の教員になった「きっかけ」があれば教えてください。
 私は、もともと法律の制定ということに関心がありました。行政法もそうですが、世の中のありとあらゆることは法律が定めています。森には森林法があり、川には河川法がある。道には道路法がある。海には海洋基本法があり、空には大気汚染防止法といった大気に関わる法律がある。そういった法律の制定に関わることができたら面白いな、というのがはじめにありました。そういった法律の制定に関わるというのは、国会議員や国家公務員ということになります。国会議員などもちろんなれませんから、国家公務員を目指そうかということになる。しかし、国家公務員というのは自分の判断でできる活動というのが非常に限られている。それは窮屈だろうなと思いました。

 次に考えたのが、法律実務家です。弁護士、検察官、裁判官ですね。ロースクールというところに行って司法試験も受験しました。実は、法律実務家には、全く興味がなかったわけではありませんが、それほど興味もありませんでした。それは、法律実務家というのは当然のことながら現行法を運用するというのが仕事になるわけです。したがって、かりに悪法であったとしても、法律に忠実でなければならない。そういった活動の制約が存在する。その制約の範囲内で自分のやりたいことをやるというのも、一つの面白さ、あるいは法律家の腕の見せ所かもしれませんが。

 現行法の枠組みにとらわれないで、もう少し自由に考えたり発言したりすることのできることは無いか、そこで法律学者というところに行き着きました。

 ロースクールで最初に受けたゼミが、行政法のゼミでした。ゼミの先生の考え方に魅力を感じたというのが行政法を専攻しようと思った要因の一つです。それから、最初に説明したことですが、世の中のありとあらゆることが法律に定められているということが、法律を扱う仕事に就こうとしたきっかけです。世の中のありとあらゆることを定めている法律の多くが、実は行政法です。これが、行政法を専攻しようとした二つ目の要因です。

5:先生が今研究していることを教えてください。
 私がいま研究しているのは、地方公共団体に対する国の関与です。

 関与というのは聞き慣れないものかもしれません。例えば、海を埋め立ててテーマパークを作りたい事業者がいる。しかし、勝手に埋め立ててもらっては困るわけです。生態系が破壊される、お魚が捕れなくなるといったことを考えれば分かると思います。そこで、法律上、海を埋め立てるときには知事の免許を受けなければならない。知事がこの免許を行う際に、国土交通大臣の認可が必要な場合がある。この場合の、知事が活動する際の国土交通大臣の認可が、関与であるということになります。

 そもそも、なぜ知事が埋め立ての免許を行うということになっているかといえば、防災や環境といった観点から埋め立ての是非を判断することができるのが知事だからです。だとすると、国がそれに関与するということの意味は何なのか、というのがずっと考えているテーマです。

 このテーマは、法律の分野でいえば地方自治法ということになります。このテーマに至ったきっかけというのは、大学院の時の指導教員の影響が大きかったと思います。その先生は、行政法の教科書ばかりではなく地方自治法の教科書も書いていますから。

5:休日は何をしていますか?
 休日は、読書をしていることが多いです。

 どのような本を読むかというと、本屋で目についた本は何でも読んでいます。職業柄といいますか、社会に関するものが多いです。さいきん読んだ本で面白かったのは、増田寛也さんの『地方消滅』という本です。日本の人口がどんどん減っていってしまうというテーマで、とても有名な新書だと思います。

 しかし、それ以外の本でも面白そうだなと思ったものは何でも読んでいます。例えば、さいきん読んだ本だと、山根明弘さんの『ねこの秘密』です。これは、猫と人の関わりとか、猫と一生がどういうふうになっているかなどをテーマにしている新書です。猫のかわいい写真も載せられています。その他に小説も読みます。小説で一番好きなのは夏目漱石の『道草』です。漱石の小説は、人間に対する観察がとても鋭くて面白いと思います。

Q6:広島に観光に行くとしたらどこがおススメですか?


 私の実家は、広島の東の端っこの福山市というところにあります。その福山市から近いところでいえば、まず挙げておきたいのが鞆の浦です。鞆の浦には、港町としてとても古い歴史があります。ジブリの映画『崖の上のポニョ』の舞台になったことでも有名です。鞆の浦を埋め立てて県道バイパスを作るという問題で訴訟になったことで、環境法的にも有名です。ちなみに、訴訟になったことで埋め立ては見送られています。


 それから、福山市のとなりに尾道市というところがあります。ここも海の眺めのきれいな町で、おすすめしたいと思います。福山からは電車で20分程度の距離です。古いお寺が多く、一日中観て回ることができます。ここも多く小説や映画の舞台になっています。

Q7:東経大現代法学部の学生はどうですか?最後に何か一言お願いします。
 とても素直な学生が多いと思います、というのが着任してからいままで授業をしてみての感想。
 
 素直なことは良いことですが、いろいろ疑ってみるということも、大学の授業では必要です。授業で先生が行った説明など、なるほどとそのまま受け入れるのではなく、何か納得のいかないことが無いかということをよく考えてみてください。その問題を発見する力というのは、大学を卒業してから役立つと思います。


 それから、答えをすぐに求めるのではなく、答えに至る過程を大切にしてください。なぜその答えに至るのかという根拠をよく考えてみるということです。逆にいえば、根拠の無い答えを簡単に受け入れないことです。特に法律の世界はそうですが、物事には必ず根拠が存在します。重要なのは適法か違法かといった結論の部分ではなく、なぜそのような結論になるのかという理屈の部分です。大学の授業では、その理屈の部分を説得的に自分の言葉で表現することができるかどうかが問われます。

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金崎先生ありがとうございました。

いかがでしたか?

難しい条文も、その立場に立って、なぜ必要なのか考えながら読めばだんだん慣れてくる、とのことです。また、先生はゼミの先生との出会いが最終的な進路に結びついたようです。皆さんにも、教員に限らず、同級生、先輩後輩、職員、カウンセラーなど、東経大でそんな出会いがあるといいなぁと思います。

金崎先生は実務家を目指した際に、新司法試験にも合格されていますので、行政法に関心がある学生だけでなく、将来実務家を目指している学生さんもぜひ金崎先生に相談してみてください。

ではまた次回!